「悔しい、何とかしたい」と思ったあなたに贈りたい。素敵な言葉。
自信のあるなし
宮本百合子
私たちのまわりでは、よく、自信があるとか、自信がないとかいう表現がされる。
自信というものに即してみれば、そもそも自信というものは私たちの生活の実際に、どういう関係を持っているのだろう。でも自信がなくて、といわれる時、それはいつもある一つのことをやって必ずそれが成就すると自分に向っていいきれない場合である。成就するといいきれないから、踏み出せない。そういうときの表現である。けれども、一体自信というものは、そのように好結果の見とおしに対してだけいわれる筈のものだろうか。成功し得る自信というしか、人間の自信ははたしてあり得ないものだろうか。
私はむしろ、行為の動機に対してこそ自信のある、なしとはいえるのだと思う。あることに動こうとする自分の本心が、人間としてやむにやまれない力におされてのことだという自信があってこそ、結果の成功、不成功にかかわりなく、精一杯のところでやって見る勇気を持ち得るのだと思う。その上で成功すれば成功への過程への自信を、失敗すれば再び失敗はしないという自信を身につけつつ、人間としての豊かさを増してゆけるのだと思う。行為の動機の誠実さに自分の心のよりどころを置くのでなくて、どうして人生の日々に新しい一歩を踏んでゆかなければならない青春に自信というものがあり得よう。 一部抜粋
宮本百合子。作家。
戦前、政党としては唯一侵略戦争に反対し日本共産党の活動が非合法化にあった時代の活動家。